「八月は夜のバッティングセンターで」6話、立ち上げた会社と他企業との合併に揺れる女性社長
舞はインターネットで動画を見ていて、バイトに遅れそうになった。急いでバイト先に着き、掃除をしていると外から大きな声が聞こえてきた。
女性がとにかく大きな声で、電話で指示をしている。「とにかく今回の件をなかったことに!!」と電話を切りしばらくベンチに座っていた。
そして舞が気になっていると、女性はお店の中に入ってきた。10,000円札を出して「すべて100円玉に」と言って両替を求めてきた。
舞は10,000円両替をするのに、小銭では追いつかないので、ビニールに包まれたままの100円玉を渡した。
するとバッターボックスに入った女性は、勢い良くバッティングをし、どんどん100円玉を追加し、バッティングを続けていく。
一心不乱にバッティングをするその姿に、周り見ていた子供たちはその気迫に圧倒されていたが、自分たちの番が回ってこない。
通常子供たちは、お小遣いでバッティングをするので、せいぜい数百円分のものだったが、女性は10,000円を両替している。
そこから考えれば、しばらくバッターボックスが空く事は無い。舞は子供たちからの訴えを受けて、注意をしにバッターボックスへ向かった。
すると、さっきまで何かぶつぶつと文句を言いながら、すごい気迫でバッターボックスにいた女性は、注意されると子供たちにすまないと言う顔をして、
「おわびの代わりにあの子たちにあげて下さい」と言ってまだ開封していない100円玉の塊を舞に渡した。そして何事もなかったように帰っていった。
舞にはずっと女性のことが気になっていた。どこかで見たはずがあるんだけど、どこで見たのか記憶が定かでは無い。
すると女性が帰った後に急に思い出した。出かける寸前に見ていたネットの番組に、ベンチャー企業の社長として出演していた女性だった。
大学生の時に、仲間たちとQRコードのシステムを開発し、それをもとに仲間たちと会社を起こして、注目の的となった女性だった。
舞が伊藤に女性のことを話ながら、ネットニュースを見ていると、彼女が立ち上げた会社が今危険な状態にあることがわかった。
だから女性はいらつき、その苛立ちをバッティングでぶつけるように、10,000円も両替して、全身でスイングしていたのだ。
その会社の危機とは、他の企業が彼女の会社を吸収合併しようとしているんだ。彼女としては仲間たちと4人で仕上げた大切な会社。
その会社が吸収合併されてしまえば、自分たちが今まで作り上げてきたものが全て奪われてしまう。そんな危機感の中、社長としての決断を迫られていた。
彼女の中では、いくら資金的に苦しいとは言え、仲間たちと一生懸命作り上げた会社を、他の企業に資金提供のためだけに奪われたくなかった。
何とかして4人の会社を守りたいと思っていた。しかし3人は彼女の意見に従うと言うが、会社の行く末は既に見えていた。
数日後女性は再び10,000円を両替して、バッティングに来た。そしてフルスイングで球を打ち続けるが、舞が伊藤に「彼女なかなかやりますね」と言うと
「問題はこれからだ。まぁ見てな!」と言って、舞にこのままバッティングの様子を見ているように勧めた。するとさっきまですべてのボールを打ち返していた彼女が、
突然すべてのボールが打てなくなってしまった。それでも彼女は「こんなボール出るはずなのに」と半ばやけくそにバットを振っていた。
最初はボールに集中して、すべてのボールを打ち返していたが、途中からボールに向かって敵対意識が芽生え始めたのが、ボールが打てなくなった要因だった。
それが彼女自身の今抱えている問題の原点だった。そこで伊藤はいつものように妄想の世界へ彼女を連れて行った。
彼女はいきなり自分がピッチャーマウンドにいることが理解できなかった。しかし舞が「これは妄想の世界なのでがんばってください」と言ってベンチに戻っていった。
周りを見渡すと、守備には一緒に会社を立ち上げたメンバーが、彼女のことを信頼し励ましていた。その励ましに応えたいと思い、彼女はピッチャーとしてマウンドに立った。
しかしよく見てみると、相手チームは今自分の会社を吸収合併しようとしている、相手企業の経営者たちだった。それならば絶対に負ける訳にはいかない。
彼女は全身の力を込めて球を投げたが、ファールボールだったり、打たれてしまったり、チームにとってピンチになってしまった。彼女はどうしたらいいかわからなかった。
すると伊藤が起きて、「前だけを見ていてはできないこともある」と言ってピッチャーは交代になった。レジェンド吉見。
常に前後左右周りを見てプレイするピッチャーだった。するとわざと勝負を放棄して、相手を出塁させた。
彼女には怒りがこみ上げてきた。なぜ勝負しないのか。すると伊藤が「この後があるから」とつぶやいた。
すると、次のバッターに対して吉見は、渾身の力を込めて勝負に出た。すると打ち返されたボールをキャッチし、アウトにして相手が負けた。
つまり、相手チームに自分たちが不利な立場にある思わせおき、油断させ実は最後の隠し球を持っていたと言うことだ。
つまり会社の合併についても同じことが言える。相手に吸収されたように思わせておき、本当は相手を利用する目的であえて吸収される。
それも1つの方法ではないかと言う提案だった。彼女は仲間と作戦を練り、相手企業の条件で吸収合併を了承し、その代わりの切り札として、彼女たちは新しい開発を進めると言う。
吸収合併され資金提供を受けたことを利用して、さらなる成長をすると言う。それが最終的な彼女の社長としての判断だった。
「八月はバッティングセンターで」は【AmazonPrimeVideo】にて1話から配信されています。
原案
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