Netflix映画「彼女」原作中村珍【羣青(ぐんじょう)】全3巻
「あたいバカだから、あんたの笑顔見るとボロボロになっちゃうんだよね」
そんな2人の出会いは高校生の時。美術の時間でデッサンをするペアを探す時だった。
お金持ちだが、レズビアンで周りから少し避けられている私と、陸上推薦で入っただけで、スパイクも買えない貧乏なあなた。
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可哀想なあなた
「笑ってくんない?笑顔を残したいんだ」私はあんたにそう言った。
あんたは無理して笑顔を作ってくれた。でもその日はあんたの家庭が崩壊した日だった。
あんたの妹2人は、父親に似ていないから、母親はあんただけを置いて家を出て行った。
父親からの暴力に耐えかねて。そしてその暴力と妻の代わりをあんたがすることになった。
もちろん夜の営みも。そしてお金を借りるときの質として、何人かの男に抱かれた。
そんなことも知らず私はあんたに笑ってなんて言った。でもあんたの笑顔が私をボロボロにするんだよ。
あんたが笑顔で言えば、私はそれに従うしかないんだよ。そのくらいあんたに惚れてんだよ。
あんたがスパイクを盗むの失敗した日、私は迷いもなくお金を出した。返してもらうつもりなんてなかった。
あんたが怪我で部活を辞めなきゃいけなくなった時、学校も退学になると知り、2年分の学費を私が払った。
全部返してもらうつもりなんてなかった。冗談で「玉の輿にでも乗って5年で返して」と言ったけど本当に冗談だったんだよ。
でもあんたは本当に3年で玉の輿にのって、300万円を返してくれた。それがあんたにあった最後の日だった。
10年ぶり
あの日は私の恋人の誕生日だったんだよ。ケーキを買って用意してたんだよ。でもあんたから「今から会えない?」
と、10年ぶりに電話がきたから、彼女のことをほったらかしにしてあんたに会いに行ったんだよ。
あんたは見せたくない体を私に見せたよね。首から下は全部アザだらけ。まるで全身群青色。
父親からの暴力から逃げても、借金のために結婚した男からの暴力からは逃げきれなかったんだね。
あんたが笑顔で「殺してくれない」と言えば私には断る理由なんて何もなかった。何も必要なかった。
あんたの夫は簡単に私に引っかかったよ。それで私は処女を失ったんだ。そのまま殺してやった。あんたが疑われないように私の証拠をたくさん残して出てきたよ。
だからあんたはもう自由だよ。私はどうするかわからないけど。でもあんたが車乗せて乗せてくれた。これからどうしようか?
2年前に死んだって聞いた父親の家でも行ってみる?そしたらあんたが警察呼んだって言うから、私はあんたに裏切られたと思った。
でもあんたは、お寿司の配達を頼んでいたんだ。私に嘘をついて。でも私は生のお魚を食べれないんだよ。
何もすることないから、懐かしい人生ゲームをしたね。楽しく笑ったよ。でも私とあんたは住む世界が違うんだよ。
だからどんなに話し合っても、決着がつかないし、たどり着く場所もないんだよ。
それは、あんたが受けてきた暴力の痛さを知らないように、あんたが惨めに生きてきた貧乏さを知らないように、
あんたも私が生きてきた人生を何も知らない。レズビアンと言うことを隠しながら必死で生きてきたことも知らない。
だから絶対に交わることのない人生だけど、私はあんたの笑顔に弱いんだよ。あのデッサンの日に、あなたの笑顔にやられたんだ。
兄ちゃん呼んだ
お金もないし、逃げるつもりもない。でも兄ちゃんだけには迷惑をかけたくない。最後に兄ちゃんを呼んだよ。
でも、あんたと兄ちゃん夫婦は絶対に仲良くなれないね。だってあんたが生きてきた人生を絶対に理解できないもの。
そんで私の生きてきたレズビアンの辛さもわからないもの。私たち2人は兄ちゃんたちには絶対理解できないよね。
あんたが言うなら、殺してくれてもいいよ。でも水に入って死ぬのだけはやめようね。皮がふやけて虫に食われるんだって。
あんたは夫が死んだら、自分も死ぬつもりだったんでしょ?私も一緒に死ぬから怖くないよ。
あんたは雨に濡れたから、風邪ひいてしまったんだろう。何か食べるものを買ってってやるから。ちょうどポケットに550円あるし。
でもあんたは、兄貴が買ったものだからって私に投げつけたよね。1口も食べずに全部捨てちゃったよね。
でもあんたは無理するばかりで、風邪がひどくなって、声も出なくなって2人で話すこともできなくなっちゃったじゃない。
あれはほんとに私が買ったお弁当なんだよ。あんたが気づいたのは、ポケットの中を探った時なんでしょう。
550円が300円に変わっていたこと、あんた見たんでしょう。私は550円の意味がわからずに使っちゃった。ごめんね。
10年前に会ったときに、割り勘にしたドリンク代だったんだね。まだ大事に取ってるって知らなかったんだ。使っちゃってごめんね。
あんたはあの時、やっと私と同じ立場の立てたと思って、記念に取っておいたんだね。でも旦那がひどい奴だったんだ。
でももう誰も暴力を振るわないよ。私が出所したらもう家族がいないから。あんたが良かったらそばにいて欲しいな。
でもあんたが死んじゃったら、私の証言をする人がいなくなっちゃうね。あんたも一緒に自首してくれるんだ。
じゃあいつかまた会ったとき、会いたいよね。私はあんたの笑顔でいつもボロボロになっちゃうんだよ。何度だって。馬鹿だから。
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